The World of M

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宝塚歌劇 月組「All for One」に見る、リーダーシップの在り方と適材適所 後編

何度見ても本当に大好きな作品、All for One - 昨日の記事の後半戦、人材の適材適所と作品見どころについて、私の完全なる私見で書いていきます。

前半記事はこちらです。

 

worldofm.hatenablog.com

 

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演出家の手腕・人材の活かし方

この度、この作品の演出家である小池修一郎先生が、特別顧問になられましたね。

news.yahoo.co.jp

 

やはり歌劇団にいろんな面で大きな功績を残されているのは間違い無いでしょうし、日本のミュージカル界において、様々な海外ミュージカルを宝塚で初演しトライアルされ、東宝に持っていくなど、現代におけるグローバルな文化発展に大きく貢献されていますよね。本当に敬意を表したいと思います。

そして、その小池先生が書き下ろされたのがこの All for One ですが、登場人物一人ひとりと、その時の月組の個性に合った作品・作風、勢いが感じられます。

若い学年でトップスターになられた珠城りょうさんの、大劇場2作目と言うこともあり、周囲を上級生と期待の下級生スター達で固め、ストーリーの中でも、ダルタニアンをはじめとする銃士隊、王宮内の動き、そして悪役のマザランファミリー・護衛隊に至るまで、全ての主要キャラクターと団体が均等に描かれています。そして、悪役も嫌味がなく、悪役なのにマザランファミリーは観客の皆様に愛されていた印象です。(私も愛してました、笑)。マザランファミリーの歌のシーンで拍手が起こる愛されぶり(笑)。

 

通年公演をしている宝塚で、どの組がどんな演目をやるか、と言うのは、おそらく数年プランでスケジュールを立てなければ、間に合わないと思います。まさにこのタイミングでこのメンバーにバランスよく当て書きしていく、というのは改めてすごい技術だなと思います。

まさに、その役者さんの長所やキャラクターを生かす作風と個性の出し方。みんながキラキラと、のびのびと演じられていたように感じました。そして All for One に関しては、主要となる役も多かったので、余計に楽しかったですよね。

 

おそらくこの作品の中では、自分に与えられた役が、自分にとってひとつ殻を破らなければいけなかった人や、役を作っていく過程、ハードな剣術に苦しまれた人もいらっしゃるのだろうと思います。ですが、その時の月組にならできる、という期待と、そしてこれからの月組をどんな組にしたいか、を熟考して、ストーリーや配役を決められているのだと想像します。

数年プランで動いている中で、数年後の組の姿を想像して演目を決めていくことも、組子一人ひとりの個性をわかっていなければできないことだと思います。それに、プランというのは狂うもので、この人にこのポジションを、と思った矢先にその人が辞めることだってあります。そういった際のサクセッションプラン、次にどの人材をどう育てていくか、ということを緻密に計算されているのでしょうね。

 

現代社会に生きる私たちが所属する組織において、特に営利企業においては、目先の売上に囚われて、サクセッションプランニングを怠りがちな側面もあると思います。しかし、組織の繁栄のためには、やはり人を育てること、かつ、その組織の数年後〜数十年後を予想しての人材育成や、予定が狂った時のプランを何個も作っておくことに取り組まず、単に営利を求めていく中では時代に淘汰されてしまいますよね。

作品の中で、それぞれの得意とする分野や個性が光る分野をピタッと当てられ、かつそれぞれがちゃんと目立ち、注目されるような描き方をされる小池先生。海外ミュージカルを日本で潤色演出されるときは、やはりオリジナル版の以降もあるのと、トップスターを主役に置かなければならないことから、演者一人ひとりの個性を光らせることも、本当は制約があるのでは無いかと思います。そんな中、小池先生のオリジナル作品だと、本当に全員に均等に見せ場があるように思えて、そしてそこから人が更に育っていく。

改めて、この度の劇団人事につきましても、心からのお祝いと敬意を表したいと思います。

 

作品見どころ その1 歌詞

そして、もう完全に自己満足な私の作品見どころを紹介していきます。

まず私、この作品の歌詞で本当に「名フレーズ」だと思っているものがたくさんありまして、全部書くと書ききれないので、2つだけ紹介します。

 

  • この地上のどこかに俺の心を求める人がいるなら どこまでも会いに行く 誰とでも向かい合おう 真実のためなら 例え相手が国王陛下であろうと(「この地上の何処かに」)

 

このフレーズは、ダルタニアンの勇気と真っ直ぐさ、立場に臆せず、自分の信じるものを大切にするという心が現れていて、大好きな歌詞です。やっぱり人間って自分が一番大事だから、保身に走って自分の言いたいこと言えない人も多いと思うんです。それでも、芯を持って自分の正しいと思ったことを貫き通す、そのダルタニアンの決意の表れに、私たち観客は心打たれるのだと思うのです。

 

  • たとえ行きずりの出会いでも 運命の相手かもしれない (「酒・歌・女 我らにあり!」)

この歌詞を考えた人は天才だと思います、本当に。だって運命の出会いってどこに転がっているかわからないし、その場でたまたまあった人との出会いが自分の人生を大きく変えるかもしれない。本当に素晴らしいフレーズ! 

 

作品の見どころ その2 細かい演技と出番の多さ

どの作品でもそうなんですけど、セリフがなくても細かい演技をしているみなさんを見るのが大好きでしして、特に、セリフではなく行動で演技をされ、そこに感情移入できる役者さんは素晴らしいと思っています。

その中でも、白雪さち花さんが演じられた、剣劇一座の女将さん シモーヌの演技がもう圧巻だと思っています。

最後に、ジョルジュ(見つかった本当のルイ14世)が、実の母であるアンヌ王女に連れられて、王宮内へ行ってしまうとき、育ての親であるシモーヌは、舞台の端で立ち止まり、一回ジョルジュたちを見て、振り切るように背中を向けて走ってハケていくんです。そもそも20年前に道で拾った子を、我が子同然に育ててきて、その子が本当は国王だった、となれば、もう気軽に会うことも話すことも許されなくなります。その寂しさが、シモーヌのその演技から伝わってきて、私は毎度そこで泣いていました。

ブルーレイでも、東京の千秋楽映像でも、そこが映ってないんですよ〜もう本当に映像に残して欲しかった演技のひとつです。

 

ついでに、私の大好きな紫門ゆりやさんが演じられたフィリップについて言及させていただくと、大劇場では香水持っていなかったのに、東京では香水をずっと自分にふりかけていて、なんかその時の得意げな顔が、唯々好きです。(笑)

 

あと、敬意を評したいのは、下級生の頑張りです。この作品、今改めて後ろにいる下級生たちを見ると、オープニングではみんな銃士隊員、そのあと衛兵になり、道化になり、悪役の護衛隊になり、そのあとは市民になり、最後はロケットと本当にみんな大変ですよ。

月組の下級生の顔と名前まで覚えてしまった今、もう一度映像を見ると、例えば、英かおとくんとか蘭尚樹くんとか礼華はるくんとか、え、ここにもそこにもあそこにも?!というレベルでいろんなシーンのバックにいます。いやもうほんとすごい、唯々すごい。なのでこういうところも、映像で全部写りきらないですけど、やっぱり全部観たいですよね。みんなこんなに色々な役をやってるなんてぜんぜん知らなかったので、こうやってみんな早着替えとか慣れていくのか、、と勝手に感動しています。

 

最後に

All for One は本当に楽しくて、大好きな2017年の夏の思い出です。でも、役を通して見るジェンヌさんへの理想を、その人に押し付けすぎず、役は役として捉えることも本当に大切ですよね。みなさん役者さんである以前に、一個人ですし、ありのままの自分を舞台上では抑えていることもあるかも知れない。素晴らしい作品と巡り会う上で、ファンとしても、その役者さん一人ひとりの個性を重んじ、距離を保って接していくことも、これからの文化発展に必要なのかな、と最近のニュースなどを見て感じています。

 

これからしばらくは、昨今の社会情勢の影響もあり、ひとつの作品を何回も観にいくことはできなくなるかと思いますし、ライブ配信も増えていく中で、多くの演者の方が、少しでも映像に残ることを祈ります。

みんなの個性が光っていることがわかるから、私たちも元気をもらえますよね。これからも、どんな舞台においても、役者の方その人の強みや個性を生かせ、伸ばせるような舞台作品との巡り合いが増えることと、文化の発展を引き続き心から願っています。