The World of M

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宝塚歌劇 月組「グランドホテル」総評 これぞ "人生" そのもの!!

今更グランドホテルの話(2017年上演)をして申し訳ないのですが、でも、本当に私にとって、グランドホテルは大切で大好きな作品なのです。

宝塚版のグランドホテルが上演されると聞き、本当に申し訳ないのですが最初は全く期待もせず、でも楽曲が聞きたいがために、大雪の中宝塚大劇場まで遠征をしました。

今日はその時のお話を軸に、これからしばらく、グランドホテルの登場人物それぞれについての、私視点での考察を書いて行きたいのですが、まず今日は、宝塚版の総評と感想と素晴らしさを存分に書いて行きます。

 

グランドホテルとの出会いについてはぜひ前記事をご参照ください。

 

worldofm.hatenablog.com

 

月組の「グランドホテル」は、現トップスターの珠城りょうさんの大劇場お披露目公演でした。私は当時、10年ぶりに宝塚観劇にカムバックしておりながらも、星組中心な生活をしており、月組は全くの初見(10年ぶり)でした。月組の評判も全く知らず、単にグランドホテルが観たい一心で、大雪の中、東京駅から始発の新幹線で宝塚まで行きました。

前年に湖月わたるさんがご出演されたグランドホテルは、トム・サザーランドさんが新解釈での演出とあったのですが、今回は、オリジナルブロードウェイ版グランドホテルの演出家、トミー・チューンさんが特別監修としてカンパニーに入られ、劇団からは岡田敬二先生と、生田大和先生が演出を担当されました。

 

私は、大劇場での初見をまず一言で申し上げると、期待以上に素晴らしく、美しすぎる世界観で、世界で一番美しいものを観たと、大げさではなく本当に思いました。

幕間で、一緒に観劇した友人も共に腰を抜かして、ふたりで本当に放心状態になりました。舞台が大好きで、今までいろんな舞台を観てきましたが、あそこまで引き込まれてしまう舞台というのは、出会うことも稀です。本当に月組のグランドホテルは、それくらい素晴らしい作品で、出会いで、私の中でずっと一番大切な作品なのだろうと思います。

 

ベルリンのグランドホテルという高級ホテルに集まった、客と従業員それぞれの人生を、ホテルで起こる数日間の出来事を、それぞれの登場人物ごとに切り取って進む群像劇です。ちなみに、この「群像劇」という言葉ですが、グランドホテルの原作となった映画「グランド・ホテル」で導入された演出技法で、「グランド・ホテル方式」とも呼ばれるのだそうです。(グランド・ホテル方式

 

宝塚版の素晴らしさを描こうとすると、きっと一万字以上のレポートになってしまうので(笑)、今日はいくつか作品そのものと演者の皆さんの素晴らしさの観点から、私の感想を書かせていただこうと思います。

 

演出について

まず、限られた舞台装置の中での、ホテルの高級感の表現方法についてです。宝塚の舞台の楽しみの一つである、豪華な装飾や舞台装置ではなく、もちろん、ブロードウェイ版と同様、椅子を動かすことだけで様々な場面が表現されています。

そのホテルの高級感に華を添えるため、「盲目の伯爵夫人」と「ジゴロ」が、ホテルのロビーでずっとワルツを踊っています。その表現方法がまず、なんとも言えない美しさを醸し出していて、ホテルの中で使われているであろうフレグランスの香りまで漂ってくるような錯覚まで感じてしまうほどの美しい世界観でした。

 

次に、ダンスシーンの迫力。いくつか大勢でのダンスシーンがありますが、それらのシーンでスポットが当たるメインキャラクター以外のみなさんが、全員、何十人も一糸乱れず、全てが計算され尽くした動きをしていて、そして何より、全員無表情であることが、また私は素晴らしい演出だと思ったのです。演出の一環として、敢えて全員が無表情であることで、そのメインキャラクターを際立たせる手法なのではないかと、素人である私は解釈しています。

私は、ダンスシーンの一つである、イエローパビリオンで、男爵、フラムシェンそしてオットーが踊るシーンの迫力は、いくら映像を観てもやはり生の舞台でなければ伝わらない。だからこそ、人生においてこの舞台を観られて本当によかったと思っているのです。

 

最後に、セリフと楽曲の訳詞の正確さと美しさです。海外ミュージカルが原作になっている作品は、日本語に訳すと、やはりその訳し方も独特で、本当に英語で伝えたいことが違ったニュアンスで訳されてしまうこともあります。これは、訳が悪いのではなく、日本のオーディエンスに合わせた、演出や尺の取り方、わかりやすい表現の仕方などが背景にあるが故だと思います。

しかし、宝塚版の日本語訳は、オリジナルの英語にとても忠実で、かつそれらを美しい日本語で表現されていました。私は、その後Spotifyで唯一、グランドホテルのオリジナルブロードウェイ版の音源を見つけることができ、聞くようになりましたが、宝塚版の日本語訳の完成度の高さに改めて驚きました。

私はこれは、本当に、本場からいらしたトミー・チューン氏と、宝塚でのロマンチックレビューを築き上げてきた岡田敬二先生がタッグを組まれたからこそ、原作に忠実で、でも宝塚の良さを引き出す表現が生まれたのだと心から思っています。

 

トミー・チューンさんが日本の宝塚で監修に入られた際の記事が、今でもCBSニュースのサイトに残っていました。

www.cbsnews.com

 演技について

それぞれの登場人物(メインキャラクター)の感情の動きの表現についてですが、ストレートかつ繊細に表現されているメインキャラクターひとりひとりの感情の移り変わり。

「人生」を探してホテルにやってきた「オットー・クリンゲライン」がホテルでの経験を通して、変わっていく。宝塚版では主人公と位置づけされた「フェリックス・フォン・ガイゲルン男爵」が本当の恋と友情を見つけ、変わっていく。

他にも、魅力的な登場人物の感情表現の豊かさ、素晴らしさを考えるとキリがないのです。

私はその中でも初見で特に感動したのが、男爵と、「エリザベッタ・グルーシンスカヤ」が予期せぬ一晩の恋に落ちるシーンでした。

正直、私は前年に見ていたトム・サザーランドさん演出版では、このシーンがピンと来ず、「男爵が本当にグルーシンスカヤを愛した」という解釈は全くしていなかったのです。

しかし、宝塚版をみて、その演技力なのか演出なのか、男爵とグルーシンスカヤが本当に恋に落ち、男爵は本気でグルーシンスカヤを愛したのだと、心にすっと入ってきました。そしてグルーシンスカヤがその後唄う "Bonjour Amour" が、また踊ること、生きることへの情熱を取り戻した彼女の姿が、あまりにも美しかったのです。

本当に、月組の演技力の強さ、すっと観客の心に入る表現力に、圧倒されました。

 

演者について

上記の通り、一糸乱れず、計算され尽くしたリズムの中で作られているこの世界的ミュージカル。もう退団された宇月颯さんが、退団インタビューの際に、「これぞミュージカル」と仰っていましたが、その世界に通じるミュージカルを、日本で、宝塚で、女性だけの演者で作り上げているその凄さ。

そして何より、私にとってとても特別なのは、男爵を演じられた珠城りょうさんの存在でした。珠城さんは、お披露目の際に「天海祐希さんに次ぐスピード出世」とメディアでも大きく取り上げられていました。

私は、もし、私が宝塚を本気で目指して入団していたら、珠城さんと同期だったかもしれない世代です。そして、珠城さんと同じ愛知県の出身。

同郷で同世代の女性が、かつて私が頭でっかちに「宝塚のトップスターになりたい!」と思ったその夢を、本当に実現させて、しかも、世界的なミュージカルの主演として舞台に立たれている。。その姿に、何よりも感動したのでした。

私の中で、(彼女のインタビュー等を見ているとそんな事実はないですが)「あの時、もしかしたら珠城さんも中日劇場花組宙組を観ていたかもしれない。同じように宝塚のトップスターになりたいと思ったのかもしれない」そんな思いを持った、彼女との出会いは、私にとってなんとも言えない感動と勇気を与えてくれ、そして、グランドホテルがきっかけで、私の人生もまた、いろんな方向に回り始めることになったのです。

 

 "Life goes on, round and round, back and forth, on and on..." という歌詞で締めくくられるオリジナル版。宝塚では「人生は回り巡る輪舞曲(ロンド)」と訳されます。

なんて美しい表現なのでしょうか。その真髄について、明日以降それぞれのキャラクターについて、私なりの解釈を書いていきます。